劉厚明

Liú Hòumíng
劉厚明
りゅう・こうめい

(1933- )

劉厚明自伝:

 1933年9月北京に生まれ、その古く美しき街に育ちてすでに52年。父は生前北平(北京)で公務局の職員をし、病気のためこの世を去った年、私は6才になったばかりだった。よって我家7人の生活は苦しくなり、すべての負担が母の肩にのしかかった。不動産を営んでいる闊という親戚が、母に二ヶ所の家の大家をするようとりはからってくれたので、生活を維持することができた。当時、北平は日本の侵略の手におち、物価は飛ぶように高く、家賃による収入は微々たるものだった。家の負担を軽減するために、まだ未成年であった2人の兄は家を出て外で生活した。一番上の姉は早くに嫁ぎ、2番目の姉は小学校4年生になると、中退して製紙工場でアルバイトをした。彼女は毎日仕事が終わると300g程度の蒸しパンを持ってかえってきてくれたが、それが彼女の給料のすべてであった。私は幼年を貧困の中で過ごしたが、かといって何も楽しみがなかったわけではない。母は字を知らなかったが、物語を話すのがうまかった。私と弟に素朴で趣のある民話を語ってくれたことは、今でも記憶に残っている。私にとっては、母こそ私の最初の文学教師であった。
 抗日戦争勝利から2年後に、私は小学校を卒業した。我家の生活は抗日戦争勝利によって改善されるどころか、かえって圧迫された。私は公立中学に受からず、私立中学は学費が高くあがることができなかったため、浪人をした。浪人の時、学問のある隣人が、熱心に漢詩や『古文観止』を教えてくれた。勉強していくうちに、私は祖国の言語の美しさと豊かさを味わい、文学を好むようになった。1年後、ついに公立中学に受かり、授業で余った時間は懸命に小説を読み、文学に対する興味は日ごとに高まった。
 1949年北平解放の時、私はちょうど中学3年生になったばかりだった。古い解放区から来た先生は、児童文学作家でもあり、よく新聞に子供の情緒に富んだ物語を発表していた。彼は私の精神的模範となり、将来は彼のように教師をしつつ子供のための作品を書きたいと思ったものだった。この思いは強く、中学校を卒業した後、私は北京師範大学に入学した。私の将来は決まった。1953年から1960年の7年間、私は教師をするかたわら、余った時間でたくさんの児童詩、児童劇を創り、発表した。1956年には中国作家協会と中国戯劇作家協会に入会し、1961年に教鞭をとるのをやめて、専業作家となった。
 後に私は北京郊外の農村に入り込み、農民たちに広く触れ、農村を題材にした劇本や小説を書いた。しかし、私がまさに創作に燃えていたその時、忌まわしき「文化大革命」が勃発した。私はその他の作家と同様、まるまる10年迫害を受けた。茶番の大騒ぎが終わった後、ようやく重い筆を取り、活動を再開した。
 50年代から80年代までのあいだ、私は百万字を超える作品を書いたが、大人向けの劇、『矢竹川のほとり』と『山村の姉妹』以外はすべて児童文学作品である。

子供のような誠実

 私の児童文学作品には、一貫した主題がある。それは愛と善を歌う、ということだ。私の心の中には理想社会がある。愛と善に満ちた人道主義の社会である。このような社会を実現するために、私は子供達を導き、努力しなければならないと思っている。
 児童文学作家をしていると、執筆中に、時折ぼんやりと子供たちと「恋愛をしている」ように感じることがある。私の心が彼らと交わり、その実感を彼らに伝え、彼らと対等に接し、お互いに相通じるのだ。児童文学作家は子供達の良き師良き友であると言う人もいるが、私は「良き師」でありたいという野望をもったことはなく、ただ子供達の心を知る友でありたいと願っている。
 大体にして、子供達にものを書いてあげるような人は、童心をもちあわせていなければならない。つまり、子供のように誠実で、実直で、心に輝きがあり、俗でなく、すべての新しい事物に対し敏感であり、楽観的で、怠惰ではない、ということだ。成人でありながら童心を保持していくことは往々にして困難である。私はよく故意に子供達の中にはいっていって、世俗の灰に埋もれるのを免れようとする。もちろん、私の作品には虚偽や俗、鈊感や怠惰への宣戦がなされているが、その目的はただ一つ、子供達を導き、認識し、批判し、抵抗することをさとすことなどにある。
 誠実、これは人間が、特に児童文学作家が宝とすべき性質である。今日、人間が横柄になり、拝金主義が氾濫しているこの世の中で、私は努めて誠実でありたい。

(『中国当代作家百人傳』求実出版社1989)

作品目録

『紅葉のしおり』(短編小説集)      1980年上海少年児童出版社
『六つの児童劇』(劇本選集)       1980年上海少年児童出版社
『児童喜劇集』 (劇本選集)       1981年山西人民出版社
『劉厚明児童文学作品選』(小説・劇本選集)1981年北京出版社
『黒い矢』   (童話・小説選集)    1983年人民文学出版社

邦訳作品

「たかおちゃん」(我和一個日本孩子的故事)『チュイホワねえさん』フレーベル館 1994.4

 
作成:小川唯

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