田漢

Tián Hàn
田漢
でん・かん

 (1898.3.12-1968.12.10)

 田漢小伝:

 劇作家、詩人。1898年、湖南省長沙の生まれ。
若くして長沙第一師範学校で学ぶ。1917年には義父について日本に留学。初めのうちは海軍に学んでいたが、後に東京高等師範学校に移り、教育を専攻する。五四運動の後、少年中国学会に参加し、郭沫若成仿吾郁達夫らと創造社を設立する。
 1922年に帰国すると、中華書局の編集者と大夏大学、上海大学教員を任され、同時に隔週誌「南国」や「南国特刊」の編集にも携わった。また南国電影劇社を創設し、映画「到民間去」を撮り、話劇の創作と演出に従事した。1927年には上海芸術大学文科主任となる。同年に欧陽予倩、周信芳、高百歳らと“芸術魚龍会”を結成し、「蘇州夜話」などの話劇を演出。ほどなく、南国社が正式に成立すると、南国芸術学院を創設、積極的に話劇活動を展開するなど、芸術系の人材の育成に尽力した。1928年から1929年末まで、上海、杭州などで話劇演出等の芸術活動を行う。
 1930年に中国自由運動大同盟、左翼作家連盟等に参加。同年5月、南国社は、労働者がストを起こす、封建国王に反抗するといった内容の劇本「卡門」を演出した事により、差し押さえられる。その後は進んで左翼戯劇家連盟の組織に参与した。1932年、中国共産党に入党し、左翼戯劇家連盟党団書記、中共上海局文委委員となる。その期間中、音楽家聶耳、洗星海、張曙らと大量の革命歌を書きあげる。なかでも「義勇軍進行曲」の影響が最も大きかった。同時に、夏衍、楊翰笙らと芸華影片公司に参加し、多くの映画脚本を創作した。1935年、国民党に逮捕される。同年秋、救保釈を組織。抗日戦争勃発後は、積極的に抗日救亡運動に加わる。ほどなく長沙、武漢に移り、郭沫若による軍事委員会政治部第3庁に加わり、抗日宣伝工作に従事する。
 1939年以後は桂林で抗日先進戯劇活動を行った。抗日戦争勝利後は、上海で「麗人行」、「憶江南」など国民党統治を暴露する劇や映画脚本を書いた。1948年、解放区に移る。建国後は中央人民政府政務院文化教育委員会委員、文化部戯曲改進局局長、中国戯劇家協会主席及び党小組書記、全国文連副主席などを歴任し、創作活動も意欲的に続けた。田は「5・4」以来中国の誇る戯劇家であり、中国現代話劇の開拓者、戯曲改革の先駆者でもある。
 1919年に処女劇作「環娥琳与薔薇」を発表してから、「珈琲店之一夜」、「獲虎之夜」、「名優之死」、「火之跳舞」、「第五号病室」、「江村小景」、「蘇州夜話」、などの劇作を次々に発表した。はっきりと反帝反封建、民主要求を示しており、ロマン主義精神にあふれている。一方で「生之意志」、「古潭的声音」、「顫栗」、「湖上的悲劇」、「南帰」などの作品は感傷や苦悶といった情緒や唯美主義的傾向を含んでいる。
 1930年に発表した「我們的自己批判」は、10年にわたる南国戯劇運動のまとめとして、感傷主義を批判した。これより後の劇作「年夜飯」、「梅雨」、「一九三二年的月光曲」、「顧正紅之死」、「乱鐘」、「暴風雨中的七個女性」、「回春之曲」、「芦溝橋」、「秋声賦」等、映画脚本「三個摩登女性」、「哀江南」、「民族生存」、「肉搏」などおよび歌劇劇本「揚子江暴風雨」では資産階級の搾取を暴露し、労働人民の抗争を描いた。また人民の抗日ムードをも描き、群集の闘争意識を高めた。抗日戦争勝利後の劇作「麗人行」は、三人の女性のそれぞれ異なる経歴を通して傀儡政権に支配された時期の上海の複雑な闘争の様子をあらわした。建国後の作品には「謝瑶環」などの戯曲劇本や話劇劇本「文成公主」、「関漢卿」などがある。中でも「関漢卿」は統治階級の労働人民と知識分子に対する迫害を暴露し、関漢卿の暴力を恐れず勇敢に立ち向かうという精神を賛美した。この時期の代表作である。人物は生き生きと描かれ、文体は詩意にあふれる。激しい情熱に満ちており、強烈な芸術的感染力を持っている。また古詩にも造詣があり、旧体詩を多く残している。さらに作詞にも優れ、「義勇軍進行曲」は聶耳の作曲により、全国で歌われ、建国後は国歌として採用された。

(中国現代文学詞典/上海辞書出版社 1990・12)
 作品集・単行本

『三葉集』郭沫若・宗白華と共著 亞東図書館 1920 上海書店影印 1982.6
『田漢散文集』 / 田漢著 — 今代書店 , 1936. —

『田漢創作選 / 田漢著 — 彷古書店 , 1946. —
『月光曲 / 田漢著 — 人民文学出版社 , 1959. —

『関漢卿 / 田漢著 — 人民文学出版社 , 1961. —
『田漢戯曲選 / 李恕基編 — 湖南人民出版社 , 1980. —
『田漢戯曲選 / 李恕基編 — 湖南人民出版社 , 1980. —
『田漢劇作選 人民文学出版社 1981.2(1955.2の第三次印刷と奥付にあるが80年代の簡体字)

   
『田漢詩選 / 田漢著 — 人民文学出版社 , 1982. — 
『田漢論創作』上海文藝出版社 1983.5
『田漢電影劇本選集 中国電影出版社 1983.12

『田漢文集 / 田漢著 — 中国戯劇出版社 , 1986. — 
『田漢文集 / 田漢著 — 中国戯劇出版社 , 1986. — 
『田漢文集 / 田漢著 — 中国戯劇出版社 , 1987. — 
『田漢選集 第一巻 / 田漢著 — 四川文芸出版社 , 1990.6– 
『田漢選集 第二巻 / 田漢著 — 四川文芸出版社 , 1990. 6–
『田漢自述』李輝/主編 2002.10
参考書

田漢評伝 / 何寅泰・李達三/著 湖南人民出版社 1984.1
中国当代文学研究資料 田漢専集 / 江蘇人民出版社 1984.3
田漢研究指南 / 田本相[等]著 — 天津教育出版社 , 1990. —
田漢在日本 / 小谷一郎, 劉平編 — 人民文学出版社 , 1997. —
田漢年譜 / 張向華編 — 中国戯劇出版社 , 1992. —

  
 作成:池田晋 

 

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