琦君

Qíjūn
琦君
きくん

(1917.7.24-2006.6.7)

略歴

本名は潘希珍または潘希真。浙江省永嘉県瞿溪鄉(現在の浙江省温州市甌海区)に生まれる。
台湾現代文学作家。元台湾中国文化学院、中央大学中国語学科教授。

作品はエッセイを中心に、小説・評論・翻訳・児童文学など幅広く、英語・日本語・韓国語などに翻訳されているものもある。
主な作品に、『青燈有味似兒時』『永是有情』『水是故鄉甜』『萬水韆山師友情』『三更有夢書當枕』『桂花雨』『細雨燈花落』『讀書與生活』など。

年譜
西暦年  事 項
1917 浙江省永嘉県瞿溪鄉(現在の浙江省温州市甌海区)に生まれる。幼名は春英。幼少時代は農村で過ごす。兄が一人おり、両親が早世したため、兄とともに伯父、伯母に育てられる。この伯父、伯母こそが琦君が文章中で表す父親と母親である。
1921 家庭教師の指導を受けて、詩経・唐詩・孟子・論語・唐宋古文などの中国古典文学を読み始める。
1927 唯一血縁関係を持つ兄が亡くなる。
1928 杭州に移る。
1935 雑誌『浙江青年』にて初のエッセイ『我的朋友阿黃』を発表。
1936 之江大学中文学科に進学(之江大学は後に合併し現在の浙江大学に)。大学では中国やヨーロッパの文芸作品を読みあさる。日中戦争の間、両親の代わりであった伯父・伯母が続けて病気で亡くなり、琦君は一家の大黒柱となる。
1941 大学卒業後、上海匯中女子中学校にて教師になる。
1943 帰郷し永嘉県中学校(現在の温州二中)にて教壇に立つ。
1945 抗日戦争が終わり、杭州に戻る。母校である之江大学で教壇に立ち、浙江高院の図書管理員も兼任する。後に蘇州法院に入り機密秘書を受け持ち、司法界と教育界の両方において仕事をする。
1949 国民党政府と共に台湾へ移り住む。高検処四等書記官を担当し、後に司法行政部編審科長をつとめる。同年、台湾に移った後の最初のエッセイである『金盒子』を中央日報にて発表。
1954 一冊目となるエッセイ小説集『琴心』を出版する。
1963 中国文芸協会が授与する中国文芸エッセイ章を受賞する。
1999 『煙愁』が『台湾文学経典三十』に入選する。
2001 浙江省永嘉県に帰郷し、「琦君文学館」開館式典に参加する。
2004 夫と共に台湾台北県淡水鎮に移り住む。
2006 6月7日午前4時45分 台北市和信病院にて死去。享年89歳。
 作品批評

チージュンは小説・エッセイ・評論・翻訳・児童文学と数多くの作品を残してきたが、その中で特に中心的であったのはエッセイである。彼女のエッセイは、彼女の幼少時代の出来事が多く、また家族について描かれることが比較的多い。チージュンのエッセイの特徴は、ありふれたものの中に見出すささやかな美しさを描く点だ。題材とする物は、日常の人物や出来事、物事である。それらが彼女ならではの視点で表現されることで、彩りが与えられる。文体は飾りすぎず、雲や水が流れるように自然であり、意図せずとも一種の美しさを生み出している。また、懐かしさと新鮮さを自由に行き来するような感覚は、彼女の作品が持つ独特の雰囲気である。彼女の作品は、古く懐かしい文学の形を根底に持ちながら、五四新文学以降の新しい精神を持ち合わせている。台湾の戦後の女性エッセイの発展において、大きな影響を及ぼした人物の一人である。

尚、彼女についての研究は、現在のところ中国大陸よりも台湾における方が進められている。

チージュンの代表作の一つであるエッセイ集『桂花雨』(1976年 爾雅出版社 )の中の『桂花雨』という話を取り上げる。

中秋節のあたりは、モクセイの季節である。モクセイというと、私はすぐにその匂いがまるで本当に嗅いでいるかのように思い出される。私がかつて人の家の囲いのそばを通ったときに嗅いだその匂いは、すぐさま私を懐かしい気持ちにさせる。

*中略

 私の故郷は海に近いところにあり、八月はちょうど台風の季節である。母親は之故に「風水忌」と呼んだ。モクセイが咲くとすぐ、母は心配した、「どうか風水をしないでくれ」(つまり台風の意味である)。母が心配したのは一番に稲穂の収穫、二番はモクセイの収穫である。モクセイは蒸し菓子や餅菓子を作る材料になる。モクセイは最も満開になったとき、十軒以上先のお隣さんの家にまでもその豊かな香りに浸されるのである。モクセイが熟れ頃になると、それはまさに「揺する」時なのである。揺すると落ちてくるモクセイの、整った新鮮な花びらが地面に落ちる。台風が来て雨風に吹かれてしまうと、花びらは湿り、よい香りは全くしなくなってしまう。

 「モクセイを揺する」ことは私にとって大事なことなのである。だからいつも母をじっと見つめ、「お母さん、なぜまだモクセイを揺すらないの?」と聞いたものだ。「まだだよ、咲き足りてないからね、揺すっても落ちてこないわよ」と母は答える。しかしある日、母は空を見つめ、雲足が長く陰ってくるのに気づくと、もうすぐ「風水をする」のだと察知した。すぐさま私を呼び、「モクセイを揺すりなさい」と言った。これに私は大喜び。モクセイの木の足下でしっかり踏ん張り、幹に抱きつき、力一杯木を揺すった。モクセイはわさわさと、私の頭からだに覆い被さるように落ちてきた。私は「わあ!本当に雨みたい。なんていい匂いのする雨!」と叫ぶ。母親は両手で落ちてきた木犀の花をすくい取りガラスのお盆の中に入れ、仏様のお堂に持って行った。父親は線香を焚いていて、その煙たい匂いと木犀の香りが混ざり合い、お堂はまるで神仙の世界のようだった。父がぽろりと詩を詠み始めた。「繊細な香りの風、淡い煙。モクセイを収穫し、今年も豊作を祝う。子供は花を揺することの喜びを心得ているようで、花雨の中で甘い夢に浸っている。」詩は高名だとはいえないが、私の心の中で、父は確かに文才溢れる人物で、素敵な詩を詠み上げたのだ。

作品リスト

合集
•《琴心》(散文、小說)國風雜誌社 1954年,爾雅出版社 1980年
•《琦君自選集》(詞、散文、小說)黎明文化公司 1975年
•《文與情》(散文、小說)三民書局 1990年
•《琦君散文選》(中英對照)九歌出版社 2000年,新版 2007年
•《母親的金手錶》九歌出版社 2001年,簡體字版 中國三峽出版社 2002年
•《夢中的餅乾屋》九歌出版社 2002年,簡體字版 中國三峽出版社 2002年
•《琦君書信集》臺灣文學館 2007年

小說
•《菁姐》(短篇)今日婦女半月刊 1956年,爾雅出版社 1981年
•《百合羹》(短篇)開明書店 1958年
•《繕校室八小時》(短篇)台灣商務印書館 1968年
•《七月的哀傷》(短篇)驚聲文物供應社 1971年
•《錢塘江畔》(短篇)爾雅出版社 1980年
•《橘子紅了》(中篇)洪範書店 1990年

エッセイ
•《溪邊瑣語》婦友月刊社 1962年
•《煙愁》光啟社 1963年,書評書目出版社 1975年,爾雅出版社 1981年
•《琦君小品》三民書局1966年,新版 2004年
•《紅紗燈》三民書局 1969年,新版 2002年
•《三更有夢書當枕》爾雅出版社 1975年
•《桂花雨》爾雅出版社 1976年
•《細雨燈花落》爾雅出版社 1977年,新版 2005年
•《讀書與生活》東大圖書公司 1978年,三民書局 1986年
•《千里懷人月在峰》爾雅出版社 1978年
•《與我同車》九歌出版社 1979年,新版 2006年
•《留予他年說夢痕》洪範書店 1980年
•《母心似天空》爾雅出版社 1981年
•《燈景舊情懷》洪範書店 1983年
《水是故鄉甜》九歌出版社 1983年,新版 2006年;簡體字版 湖北人民出版社 2006年

•《此處有仙桃》九歌出版社 1985年,新版 2006年
•《玻璃筆》九歌出版社 1986年,新版 2006年
•《我愛動物》洪範書店 1988年
•《青燈有味似兒時》九歌出版社 1988年,新版 2004年;簡體字版 湖北人民出版社 2006年
•《淚珠與珍珠》九歌出版社 1989年,新版 2006年
•《母心‧佛心》九歌出版社 1990年,新版 2004年;簡體字版 湖北人民出版社 2006年
•《一襲青衫萬縷情》(我的中學生活回憶)爾雅出版社 1991年
•《媽媽銀行》九歌出版社 1991年,新版 2005年
•《萬水千山師友情》九歌出版社 1995年,新版 2006年
•《母親的書》洪範書店 1996年
•《永是有情人》九歌出版社 1998年,新版 2005年

児童文学・絵本
•《賣牛記》繪者:田原 台灣省教育廳 1966年,2006年 三民書局將舊版的《賣牛記》與《老鞋匠的狗》合一,成新版的《賣牛記》
•《老鞋匠和狗》繪者:田原 台灣省教育廳 1969年
•《琦君說童年》純文學出版社 1981年,三民書局 2006年
•《琦君寄小讀者》純文學出版社 1985年,健行出版社 1996年,2004年 原書更名為《鞋子告狀—琦君寄小讀者》九歌出版社
•《桂花雨》繪者:黃淑英 格林文化出版社 2002年
•《玳瑁髮夾》繪者:黃淑英 格林文化出版社 2004年

論述
•《詞人之舟》純文學出版社 1981年,爾雅出版社 1996年
•《琦君讀書》九歌出版社 1987年,新版 2006年

翻訳
•《傻鵝皮杜妮》國語日報 1965年
•《涼風山莊》純文學出版社 1988年
•《比伯的手風琴》漢藝色研出版社 1989年
•《李波的心聲》漢藝色研出版社 1989年
•《愛吃糖的菲利》(頑童菲利三部曲)九歌出版社 1992年,新版 2008年
•《好一個餿主義》遠流出版社 1992年
•《小偵探菲利》(頑童菲利三部曲)九歌出版社 1995年,新版 2008年
•《菲利的幸運符咒》(頑童菲利三部曲)九歌出版社 1997年,新版 2009年

参照サイト

维基百科,自由的百科全书 [琦君]

 リンク

甌海三溪中學琦君文學館
國立中央大學中國文學系 琦君研究中心(国立中央大学中国文学学科琦君研究センター)
YouTube映像
05知名作家_琦君.mp4
作家身影:琦君(潘希珍)
 

 作成:石津早穂

Chinese Literature Site

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