中国現代文学の歴史は、政治運動と論争の歴史と言っても過言ではない。五四運動の時期においては、『新青年』を拠点とするグループと「旧文学派」と呼ばれるグループの対立と論争があり、1920年代には、「文学研究会」と「創造社」の論争が、20年代後半には「革命文学」に関する論争があり、1930年代には、「民族文学」や「第三種人」、「文藝の自由」問題に関する論争があった。日中戦争をめぐっては、「国防文学論戦」があり、いわば論争を通じて、文学者はグループ化され、また分化と統一化を行なってきた。共産主義運動にたいする支持者と反対派とが、中国共産党と中国国民党の対立の周辺で、様々な立場を主張した。戦時中から戦後にかけては、文学観をめぐって、「主観」論争なども展開された。中華人民共和国成立後も、胡適批判、武訓傳批判、紅楼夢研究批判など、民国時代から大きな影響をもった学術思想に対して、批判が加えられていった。人物描写の問題については「中間人物」を描くことについての議論があった。とくに政治的対立を反映しがちな歴史小説や歴史劇に関しては大きな議論があり、創作方法としてのリアリズム論に関しても、ソ連の社会主義リアリズムの手法をめぐって、また毛沢東によって提起されたという「革命的リアリズムと革命的ロマン主義の結合」論に関しても60年代以降、延々と議論が続けられている。1980年代になると、社会主義における疎外の問題と人道主義に関する議論が文化大革命の反省の意味において展開されたが、民主化の問題も含めて、実りある結論に至ったとは言えない状況にある。1990年代には、文学の商品化問題があらたに議論の対象になり、それにともなって「性愛」描写の是非についての議論も一定行われた。 |
研究書・参考書(中文)『文学論争20年』白燁/編著 華中師範大学出版社 1998.5 |
研究書・参考書(日文) |
資料 |
中華民国期 |
東西文化問題『五四前後東西文化問題論戦文選』陳崧/編 中国社会科学出版社 1985.2 |
革命文学論争・国防文学論争『革命文學論文集』霽樓/編 生路社/出版 新學會社/発行 1928.5初版 大洋八角 |
中華人民共和国期 |
形象思惟関係『形象思維問題論叢』社会科学戦線編輯部/編 吉林人民出版社 1979.10 |
人間性・人道主義関係 |
『人性、人道主義問題討論集』人民出版社 1983.3 『異化與人道主義問題評論集』四川省社会科学院出版社 1984.2 『人道主義和異化問題研究』北京大学哲学系編 北京大学出版社 1985.6 |
性愛描写関係 |
『有争議的性愛描写』張散・馬明仁/選編 延辺大学出版社 1988.6 |
作成:青野繁治 |