文学史

  中国の文学史は、おそらく大学で講義するときの都合があるのだろうと思うが、古代、近代、現代、当代という区分がなされ、アヘン戦争以前を古代とし、アヘン戦争から辛亥革命までを近代、辛亥革命から中華人民共和国成立までを現代、中華人民共和国成立以降を当代と考えるのが、中国の一般的な区分である。この区分は毛沢東の「新民主主義論」に示された新民主主義革命の考えに基づき、近代を半封建、半植民地化から解放する反帝反封建運動と捉える。清朝という封建王朝を打倒し、共和体制に移行した辛亥革命までを一つの政治的区切りとみなし、また北京大学を中心に雑誌『新青年』を中心に民国初期に展開された「五四新文化運動」や「文学革命」(その中心的指標は、口語文の確立と儒教批判である)を思想的区切りとする考えである。「五四」以降の西洋近代文学に影響された口語の文学を中国の文学史では従来「中国新文学」と呼んだ。その後、中華人民共和国成立以降の様々な運動をへて、最終的に文化大革命後の文学界再編にともなって、1949年以降を当代文学とする文学史が登場してきた。1949年に毛沢東の「文芸講話」の継承を趣旨として成立した文学藝術工作者聯合会や中国作家協会は、文化大革命の10年間活動を停止していたが、78年に活動を再開した。1949年以前からも含めて文学史の再構成が行われるのと同時進行で、中国の更に新しい時期の文学、いわゆる「新時期文学」も多くの作品を生んだため、文化大革命の傷痕を描いた「傷痕文学」、中国社会と政治のあり方を深く思考する「反思文学」、中国の伝統文化に新たな価値を見出す「ルーツ探しの文学」、西洋のアバンギャルド文学の影響を受けた「先鋒文学」など新たな文学ジャンルも多数登場してくることになる。「新時期」になって少しずつタブーの打破に挑戦してきた中国文学は、1989年の第二次天安門事件を契機に意気消沈の時期を迎えるが、鄧小平の南巡講話と改革開放の進行の結果として、「向銭看」の風潮が文学にも顕著になり、売れる作品がよい作品、という市場化傾向が顕著となる。その為性を主題とする文学作品が流行した時期もあるが、芒克の『野事』、莫言の『豊乳肥臀』、賈平凹の『廃都』といった作品が発禁処分を受け政治の引き締めを招く、という状況もあった。一方、インターネットの発達にともない、文学の担い手の大衆化が進んだことは、1949年以降、文学界を独占的に支配してきた文聯や作家協会には属さない市民や若者が文学創作の担い手となっていく。2000年に八〇後世代の代表格、韓寒の『三重門』が出版されたことは、中国文学が新しいフェイズに入ったことを示す象徴的な出来事だったと考えられる。
資料(中文)
『中國近代文學的變遷』陳子展/著 中華書局 中華民國18年4月 上海書店影印 1982.12
『中国新文壇秘録』阮旡名/編 上海南強書局 中華民國22年6月初版 上海書店影印 1983.8
『我與文學』鄭振鐸・傅東華/編 生活書店 1934 上海書店影印 1981.6
『創作的經驗』魯迅等/著 上海天馬書店 1933.6初版1935.5四版 上海書店影印 1982.4
『中國新文學運動史資料』張若英/編 光明書局 中華民國廿三年四月初版 大洋1元2角
上海書店影印 1982.5
『作家論』文學出版社 中華民國25年4月 上海書店影印 1984.7
   
『抗戰文藝論集』洛蝕文/編 中華民國廿八年三月卅一日 國幣八角 上海書店影印 1986.1
『中國新文學大系導論集』蔡元培等/著 上海良友復興圖書印刷公司 1940年10月初版
上海書店影印 1982.11
『中国現代文学運動史料摘編』(上・下)北京出版社 1985.1
『新時期文学思潮』陳賢暉/著 廣東高等教育出版社 1989.4
資料(日文)

『現代中国の文学 展開と論理』竹内実/著 研究社叢書 1972.2.29
『中国の現代文学』小野忍/著 東京大学出版会 1972.6.5
『現代の中国文学』相浦杲/著 NHKブックス 日本放送出版協会 1972.10.25
『中国文学最新事情 文革、そして自由化のなかで』竹内実・萩野脩二/編著 サイマル出版会1987.2
『中国現代文学史』吉田富夫/著 朋友書店 1997.5.14

作成:青野繁治

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