詩歌

 中国の詩歌は、『詩経』『楚辞』に始まり、漢代の賦、唐代に隆盛した古詩、絶句、律詩、宋代の填詞など歴史上多くの詩形が現れ、人気の高いものは現在も行われている。詩歌の解説や批評の文が「詩話」として、後の散文や小説に発展していくようなケースもあった。20世紀に入って、西洋の詩に影響を受けた形式にこだわらない自由詩、あるいは西洋風の形式にのっとった十四行詩や格律詩などが試みられ、文学史においては、古典の「旧詩」に対して、「新詩」と呼ばれた。文学全体として、「旧文学」「新文学」という対立があったのを反映しているのであろう。「新詩」の最初の作品集は郭沫若の『女神』であった。それより以前に胡適らが『新青年』上で試みていた口語詩の実験は1922年に『嘗試集』にまとめられているが、『女神』のように成功してはいない。その後、朱自清聞一多徐志摩朱湘戴望舒馮至李金髪卞之琳など現代文学を代表する詩人たちが登場する。そういうなか、1935年に「沁園春・雪」で登場した毛沢東の宋代の詞に則った作風は、いわゆる「民族形式」という形で古典詩を現代によみがえらせる試みであったと言えようか。
 少数民族の歌垣の伝統文化に根差した「山歌」という恋の歌は、中国共産党の民族政策の反映として、組織的に収集された。『阿詩瑪』『劉三姐』など漢語に訳されたりしたものも多い。
 1950年代末から1960年代にかけて、大躍進政策を反映したとされる「新民歌運動」が展開され、毛沢東が提起したという「革命的リアリズムと革命的ロマンチシズムの結合」(両結合)の創作方法がタイアップして提唱されたが、大躍進政策の失敗によって、長くは続かなかった。
 文化大革命が始まると、多くの作家や詩人が批判され、文聯や作家協会などの活動が停止したため、革命現代京劇と浩然の農村小説以外は文化界から淘汰されてしまうが、地下文学として、手書きでやりとりする形の詩作が流行し、郭路生などの詩人が登場した。
 1986年1月の周恩来の死を契機に、第一次天安門事件が起きるが、このとき清明節に天安門広場に集まった人々が、周恩来を追悼するとともに文化大革命を批判する内容をもった詩が登場し、文革後に『天安門詩鈔』『天安門詩文集』などにまとめられた。
 文化大革命が収束すると、北京西単にあった民主の壁を舞台として、民主化を求める人々が壁新聞を貼りだしたり、ガリ版刷りの文集を配布したりしたが、そういうなかから登場するのが雑誌『今天』に依った詩人たちである。北島芒克顧城舒婷、徐敬亜などの詩人や史鉄生のような作家、黄鋭のようなアーティストが登場した。彼らの作品は批判的な意味もこめて「朦朧詩」と呼ばれたが、文革前の革命詩とは異なる新しい表現に共感する若者が多く、ひとつの時代を築いたと言ってよい。
専著

『現代詩四十家風格論』孫琴安/著 上海社会科学院出版社 1987.9
『詩人與詩』治芳/著 安徽文藝出版社 1988.12
『新詩創作論』駱寒超/著 上海文藝出版社 1990.10
『中国詩学』葉維廉/著 生活・読書・新知三聯書店 1992.1

アンソロジー・研究資料

『中国現代主義詩群大観 1986-1988』徐敬亜・孟浪・曹長青・呂貴品/編 同済大学出版社 1988.9
『中国新詩萃 20世紀初葉-40年代』謝冕・楊匡漢/主編 人民文学出版社 1988.10

邦訳アンソロジー

『世界現代詩文庫 12 台湾詩集』北影一/監修 小野十三郎・小海永二/編訳 土曜美術社 1986.7.20
『億万の輝く太陽 中国現代詩集』財部鳥子・穆広菊/編・訳 1988.4.25
『西安の詩人たち 長安詩家作品選注』前川幸雄/著 福井新聞社 1995.11.30

研究書・参考書

『山歌(さんか)の民族誌 歌で詞藻(ことば)を交わす』附DVD 梶丸岳/著 京都大学学術出版会 2013.3.31

作成:青野繁治

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